アーティスト 4月 15, 2026

Shōtaro Aoyama:スタジオからランウェイまで広がるAbleton Liveの活用術

Shōtaro Aoyamaは、サカナクション・山口一郎氏が率いる「NF」でのDJ・映像ディレクションや、パリ・コレクションをはじめとするファッションショーの音楽制作など、多方面に活動を展開するマルチクリエイターです。近年は、自主レーベル「Hyōgu」を主宰し、日本各地の土地・自然・文化を電子音楽に変換する作品を発表する一方、他アーティストとのコラボレーションやリミックスワークも精力的に行っています。

本インタビューでは、現在の多岐にわたる活動の原点をはじめ、Ableton Liveとの出会いやお気に入りの機能、さらにはモジュラーシンセとの連携からファッションショーの現場で求められるリアルタイムオペレーションまで、マルチクリエイターならではのLive活用について話をうかがいました。

音楽制作を始めたきっかけを教えていただけますか?

Shōtaro Aoyama:もともと軽音楽部でバンドをやっていたのですが、年を重ねるにつれてメンバーがバラバラになっていきました。そんな時期に大学の夏季留学でマイアミを訪れ、現地で初めてクラブに行ったんです。今思えばコテコテの派手な箱でしたが、同じクラブの中にヒップホップの部屋とテクノの部屋があって、DJが一人で音楽を成立させている。それまで一人だけでは音楽はできないと思い込んでいたので、大きな衝撃でした。一人でも音楽ができるという発見が、ダンスミュージックへの入り口になりました。

その後、就職した先のレコード会社の先輩にDJを教わって、パーティーのオープニングを任されるようになりました。DJをやりたくて始めたというより、環境の中で自然にそうなっていった感じですね。その延長で「自分でも曲が作れるのではないか」と思い、Cubaseなどで遊びながら制作方法を覚えていきました。ただ当時はまだ楽曲のリリースに対する敷居が高い時代だったこともあって、あくまで音楽制作は趣味という感じでした。

プロのアーティストとして活動するようになった経緯を教えてください。

Shōtaro Aoyama:レコード会社を経て、パリの音楽レーベル兼ファッションブランド・Kitsunéで働くことになったのですが、そこでの役割はアーティストではなくPR〜アシスタントでした。また、Kitsunéを離れて日本に戻った後は、パリで得たファッションのノウハウを活かして洋服の仕事をしていた時期もあります。その後、セレクトショップの仕事で再びパリに渡ったのですが、Kitsuné時代に知り合った現地の若いアーティストたちが3年の間に大きく成長していて、自分たちでレコードをプレスできる環境を築いていたんです。彼らに「お前もやれば?」と背中を押されて、「自分でもやってみよう」と白盤を作ったのが、音楽制作に本腰を入れるきっかけでした。

そこからアーティストとしての活動が始まっていったのですか?

Shōtaro Aoyama:その後にもうひとつ話があって。帰国後、縁あってサカナクション・山口一郎さんが率いるNFプロジェクトにDJとして参加するようになりました。活動を重ねるなかで山口さんの後押しもあり本格的にアーティストとしての活動を始めました。

現在は音楽だけでなく、映像制作やファッションデザインも手がけるマルチクリエイターとして活動されていますが、こういった多方面に渡って活動するようになったのはどのような経緯からですか?

Shōtaro Aoyama:実は自ら「マルチクリエイターになろう」と思って始めたわけではなく、周囲に求められ、それに応えているうちにそうなっていったという感じなんです。例えば、レコード会社で働いていた頃は、リリース用の販促資料をIllustratorで作っていたし、そこでAdobe製品の操作を覚えました。それとその頃にCanonからEOS 5D Mark IIというフルHD動画撮影に対応した一眼レフが発売されたことも大きかったですね。そのおかげで個人でも映像が撮れるようになったので、YouTubeのチュートリアルを見ながら独学で映像編集を覚えました。あと、ファッションに関しては、先ほど話したKitsunéや洋服の仕事で培ったノウハウがベースにあります。

そうした映像やファッションの経験が、その後の活動にもつながっていったのでしょうか。

Shōtaro Aoyama:はい。NFに参加してサカナクションのZeppツアーに帯同した際、「ユリイカ」の演出用に東京の風景映像が必要になり、「映像を撮れる?」と聞かれたのが転機でした。試しに作ったものが採用されて、そこからツアーのチームと仕事を重ねるうちに、「次は何ができる?」「グッズは作れる?」と、求められる領域がどんどん広がっていったんです。インディペンデントな現場では一人が何役もこなさないといけない場面が多いので、そういう環境に身を置き続けたことが大きいと思います。

主宰されているレーベル"Hyōgu"の名前に込めた意味を教えてください。

Shōtaro Aoyama:"Hyōgu"という名前は、掛け軸のフレームを意味する「表具」に由来しています。僕の音楽は自分が主役になるというより、何かモチーフがあってそこに音楽としてフレーミングをする役割だと思っていて、その土台を作るという意味で名づけました。

Hyōguからは『Ainu Utasa』EPや『Shiretoko』EP、『The Tape from Honjima』など、日本の特定の土地・自然・文化から出発した作品を発表されています。このアプローチで制作するようになったきっかけと理由を教えてください。

Shōtaro Aoyama:きっかけはサカナクションとも親交のあるKuniyukiさん経由でアイヌの方々とつながったことですね。その縁でコロナ禍の少し前に開催された「ウタサ祭り」に参加させていただいたのですが、その縁で一緒に曲を作ることになりました。それが『Ainu Utasa』EPとなり、Hyōguの出発点になっています。

また、『Shiretoko』EPは、以前から広告音楽を手がけていたTHE NORTH FACEとの仕事の延長で生まれたものです。世界自然遺産である知床への取材企画があり、「フィールドレコーディングで曲を作ろう」と声をかけてもらいました。『The Tape from Honjima』の作品は、家具ブランドのFritz Hansenが瀬戸内国際芸術祭の期間中に香川県の本島で行ったイベントがきっかけです。

最初は「カフェで流す音楽を作ってほしい」という依頼だったのですが、「この島に歌はないんですか?」と聞いたら盆踊りのカセットテープが出てきて、それを使って曲を作ることになりました。どの作品も、自分から「やりたい」と動いたのではなく、人との出会いやご縁から生まれています。長年その土地に根付いてきた固有の文化の音を扱う以上、ある程度の関係性がなければ文化の盗用にもなりかねない。だからこそ、コミュニケーションとタイミングの中で自然に生まれるものを形にしていくという姿勢を大切にしています。

ウタサ祭り2021 - Shōtaro Aoyama × Kapiw & Appapo + 鶴の舞

ウタサ祭り2021年の様子。

Liveを使い始めたきっかけを教えてください。

Shōtaro Aoyama:YouTubeがきっかけです。当時すごく好きだったSébastien Légerが、『FUTURE MUSIC』というチャンネルで自分のスタジオと制作プロセスを公開していて、そこで使っていたのがLiveでした。それまではLogicで制作していたのですが、すぐに乗り換えて見よう見まねで使い始めました。もう12、3年前のことですね。そこからずっとLiveを使い続けています。

Liveの中で特に気に入っている機能やデバイスはありますか?

Shōtaro Aoyama:Impulseですね。すごくシンプルなデバイスなのですが、制作時は毎回立ち上げてしまいます。今はウェーブ・テーブルシンセを使ったテクニカルな音作りが主流ですが、直感的にイメージを素早く組み立てられることを重視していることもあって、Impulseにどんどん音を入れて、そこにAuto FilterやLFOを重ねていくやり方が性に合っています。シンプルなものを積み重ねて音を作っていくのが好きなんです。

それとあとから特定の音を差し替えやすいところも気に入っています。XLN AudioのXOのような高機能なサンプラーも持っているのですが、なぜかいつもImpulseを立ち上げてしまいますね(笑)。

あと、Auto FilterやDelayなど純正エフェクトがバージョンアップでちょっとずつ良くなっていくところも気に入っています。それまでの使い方をそのまま維持しつつ、できることが増えるという変化が、僕にとっては一番ありがたいですね。

Liveの音そのものについてはどのように感じていますか?

Shōtaro Aoyama:Liveはまとまりのある音になるところが好きですね。粒立ちがバラバラに出るのが好きな人もいると思いますが、Liveはどちらかというと各トラックがしっかりグルーされて、ひとつのまとまりのある音像になる。テープに通したような、全体がグッとまとまる感覚というか。僕はエンジニアではないので、バンドでレコーディングをすると音がしっちゃかめっちゃかになりがちなのですが、そこをグッとまとめてくれるイメージがあります。

フィールドレコーディングした自然音や伝統楽器の音素材はどのように加工・処理されるのですか?

Shōtaro Aoyama:実はあまり加工はしません。どちらかというとアンビエント的に流して、空気感や周波数的な厚みを加える使い方が多いですね。ただ、楽曲の構成として使うこともあります。例えば、パリ・コレクションのランウェイ用の音楽では、フィールドレコーディングのアンビエントから始まって、そのシーケンスが徐々にリズムへと変化し、パーカッションが入ってくるという導入にしたことがありました。それとサカナクション「ユリイカ」のリミックスでも、冒頭に築地橋の交差点で録った東京の環境音を入れています。どちらも世界観を表現するためのテクスチャーという位置づけですね。

知床の流氷の上でフィールドレコーディングを行う様子。「Shiretoko EP」のリリースへとつながった。

モジュラーシンセも使用されているとお聞きしていますが、使い始めたきっかけを教えてください。

Shōtaro Aoyama:子供の頃にミニ四駆にハマっていた感覚に近いですね。もともとKORGのMS-20やPolysixなどヴィンテージのアナログシンセが好きで持っていて、修理の相談で楽器店を訪ねたら壁面にびっしりモジュラーシンセが並んでいて衝撃を受けました。

その後、モジュラーシンセのイベントで、科学者のような方が電圧と音の関係を説明しているのを聞いて、すごく面白いと感じたんです。正直、説明の内容は一切理解できなかったのですが、電圧で音階が変わるという仕組みがギターの弦の振動で音程が変わるのと通じるところがあって(笑)。「かっこいい」というよりは「面白い」という感覚が強かったし、何よりパーツを組み合わせると自分だけの楽器になるというコンセプトに惹かれました。

制作の中でのモジュラーシンセとLiveの役割分担、そして具体的な連携方法を教えてください。

Shōtaro Aoyama:モジュラーシンセは、完全に素材を作るための機材という位置づけです。以前はモジュラーだけでライブを完結させようと考えていた時期もあったのですが、それだと音楽性がどうしても偏ってしまうんです。だから、今はシーケンサーでさまざまな音を長時間回して、良いテイクをサンプリングし、Live側でそれを楽曲に組み込むというワークフローになっています。

それとLiveとモジュラーシンセの連携にはExpert SleepersのFH-2を使っています。MacからUSBで接続するとMIDIコントローラーとして認識され、Liveで入力したMIDIノートをCVとゲートに変換してモジュラーに送ることができます。1ボルトあたりのオクターブ設定などをあらかじめ済ませておけば、Live側でVerbos ElectronicsやMake NoiseのDPOといったモジュールが意図した通りに鳴ってくれる。あとは好みのフィルターに組み替えながら音を作り込んでいくという流れですね。

ライブパフォーマンスでは、Liveをどのように活用していますか?

Shōtaro Aoyama:基本的にはLiveとAKAIのAPCコントローラーを使って、あらかじめ作ったフレーズやクリップを再生していくスタイルです。実機を使う時はMIDIを書き出してモジュラーに送りながら演奏したり、RECトラックを設けてマイクで生の音を取り込んだりもしますが、こうした使い方はKuniyukiさんの影響が大きいですね。

特徴的なのはパリ・コレクションのランウェイでの使い方です。モデルのルックに合わせて音楽を切り替えていく必要があるのですが、着替えが間に合わないと予定通りの順番でモデルが出てこないことがある。そのため、ループポイントを作って音をループさせながら待機し、タイミングを見計らって次の曲に切り替えるんです。1曲目のシンセが残っている状態から次の曲へBPMと小節の頭を合わせてシームレスにつなぎたいので、画面を見ながらループを細かく操作していく。その際はフィジカルなパッドを押せた方がミスが起きにくいので、コントローラーの存在は大きいですね。

音楽ライブとファッションショーでは使い方が変わるんですね。

Shōtaro Aoyama:基本的に音楽ライブは自分のペースで進行できますが、コレクションは向こうの進行に合わせて音楽を操作していくので求められるオペレーションの性質がかなり違います。ただ、そういった現場で使っている機能自体はシンプルなものだと思います。

ーー:先ほどお話にあったウタサ祭りのライブでは、どのようなセットアップで臨まれたのですか?

Shōtaro Aoyama: ウタサ祭りでは、Liveを入れたパソコンを2台使い、Ableton Linkで接続するシステムで行いました。1台は映像クリップのローンチ、もう1台はライブ音源のローンチを担当させて、1つのコントローラーで同時に制御する構成です。

映像と音の処理はそれぞれ負荷が大きく、1台で同時に走らせるとトラブル時にシステム全体が停止するリスクがあるので、安定性を重視して役割を分けました。映像については、コンセプト設計から撮影・編集・エフェクト処理まですべて自分で行っていて、画角や動き、演出も含めて音と完全に同期させた形でライブに組み込んでいます。なのでVJや映像オペレーターはおらず、制作からパフォーマンスまで一人で完結する体制ですが、こうしたプロダクション体制が実現できるのもLiveの特徴のひとつです。

あと、音の面では、MIDI信号を外部機材に送出するかたちで、モジュラーシンセやSequential Prophet-6をリアルタイムでコントロールしています。フィルターや各種パラメーターをライブ中に操作しながら演奏することで、即興性とダイナミクスを持ったパフォーマンスを実現しています。

最後に、Ableton Liveを使って音楽制作に挑戦したい方にメッセージをお願いします。

Shōtaro Aoyama:今はもう情報は無料で手に入る時代ですから、「知らない」ということは通用しなくなっています。例えば、LiveにしてもMax for Liveを使えばVJ的なこともできますし、パソコン一台であらゆることが可能です。その事実を踏まえて考えると、自分が持つ情報量によって、アーティストとしての実力が変わってくる時代だと思っています。

ギター少年だった僕は、最初DJやターンテーブルを「人の曲をかけるだけだろう?」と軽視していました。でも受け入れてみたら、その先にすごく面白い世界が待っていた。DTMも同じです。今でいえばAIがまさにそうで、個人的にはLiveにもぜひAI機能を取り入れてほしいくらいです(笑)。AIで音楽を作るのも実は簡単ではなく、どう指示を出すかという部分には奥深さがある。軽視するにはもったいない領域だと思いますね。だから、新しいツールや文化の変化に対しては好き嫌いなく取り組んでいった方が、結果として面白い場所にたどり着けるのではないかと思います。


文・インタビュー:Jun Fukunaga

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