Artists

Gregor Schwellenbach: Kompaktという調べを奏でる楽曲たち

Gregor Schwellenbach top.jpg

20年目にして早くもKompaktは、ジャーマン・エレクトロニック・ミュージックの原動力としての地位を確立しています。地元色の強い共同体としての機能を保ち、そのフォーカスはプロデューサー、アーティスト、DJ、レーベル、サウンド関連イベントのコミュニティに置かれており、いつまでも失われることのない新鮮さが特徴的です。Kompaktの魅力と奇抜さ、来る者を友好的に受け入れながらもかたくなにケルンにこだわる忠実さは、ケルンという街の持つ、ポップ・ミュージックの姿を借りて発展したアヴァンギャルドなエレクトロニック・ミュージックの豊かな歴史が関係しています。

Kompakt20周年を記念して、予想を裏切る美しい作品を制作するべく、オーケストラ作曲家のGregor Schwellenbachが選ばれました。長年にわたる活動によりポップ・ミュージック界からクラシック界へとその転身の洗練度を高めてきたSchwellenbachは、Kompaktの膨大なカタログを用いてその過程を逆行することを試みました。レーベルを象徴する人気トラック20作品を分解し、彼自身が厳選した室内演奏家によるアンサンブル用にアレンジしてみせたのです。こうして、アルバム「Gregor Schwellenbach Spielt 20 Jahre Kompakt」が完成しました。20周年を記念したKompaktポップアップ・ストアがベルリンのAbleton本社に出店中のなか、本社にほど近いフォルクスビューネ劇場でのピアノ・ソロ・パフォーマンスを控えたGregorに、彼お気に入りの地元レーベルと取り組んだこのアルバム・プロジェクトについて、音楽による問題解決の手法と狙いについて話を聞きました。

 

あなたのSoundCloudページにヤマハのキーボードとトークボックスを使用したデヴィッド・ボウイのカバーが公開されていますね。異なる音楽的コンテキストによる音楽の再解釈についてはお詳しいと想像します。

ええ。あるものを取り上げて、それを別のコンテキストに翻訳するという作業は、これまでの音楽人生でずっとやってきたことです。クラシック界ではエレクトロニック・ミュージックとポップ・ミュージックに親近感を抱いている者として、またポップ界ではクラシック音楽の教育を受けたアカデミックなバックグラウンドを持つ者として、どの分野でも居心地よくやってきました。

他者の作品を扱う今回のプロジェクトでは、クリエイティブ面でどのような手法を採ったのかお教えください。

まずテクノ・チューンを楽譜に書き出すことから始めました。その後、自分がなぜKompaktチューンが好きなのかを理解するために、Kompaktチューンを別に書き出してみたのです。そのときは、これは作曲家として楽曲の構造を理解するために行う一作業にすぎませんでした。それが2003年か2004年だったと思います。その数年後、Kompaktのスタッフに「こんなことをやってみた」と見せてみたところ、「面白い。もう少しやってみてくれないか」という反応を得ました。それでこのプロジェクトを進めることにしたのです。本当に、当初は自分が惹かれる理由を知りたかっただけだったんですよ。

分解できないトラックはありませんでしたか?

ありました。いろんなケースがありましたね。20トラックを用意することになっていたので、20曲を選ぶのに約200曲を楽譜に書き出しました。記譜に取りかかってすぐにキャンセルした曲もありますし、中にはレコーディング後、さらにはエディット後にキャンセルにした曲もあります。演奏が難しすぎたり、エレクトロニック・サウンドを抜くと退屈な曲や内容のないトラックになってしまったりするものもありました。レコーディングをスタートさせたのが40から50曲、レコーディングが完了したのが25曲、アルバムに収録されたのが20曲という具合です。

同様のプロジェクトを行っている他のアーティストについてはどのようにお考えですか?ジェフ・ミルズ、Francesco Tristano、Henrik Schwarz、Brandt Brauer Frick、Ricardo Villalobosなどのアーティストがエレクトロニック・ミュージックとクラシック音楽を結びつけた作品を発表していますが、そのほとんどがあなたとは逆の分野から出発した人たちです。

彼らと私の間にはたくさんの共通項がありますが、聴くことはあまりありません。気に入った曲が見つかると、先を越されたような気がしますし。まったく気に入らない場合もあります。名前が挙がったアーティストの中では、Francesco Tristanoがとても好きです。クラシックとその他の音楽の間に架けられるこのような橋は、極めて悪趣味なものになってしまうこともあります。お行儀が良すぎたり、シンプル過ぎるのは好きではありません。俗に言うロック・クラシックなどはおぞましいと思います。

同じようなことを私も考えていました。特定の音楽スタイルの観点から考えた場合、アーティストがクラシックやジャズのオーケストレーションで実験的なことを始めるとき、それは形式におけるある種の成長であり、結果そのものはよいものでなくても、音楽的正当性を最大限に証明するものであるはずです。このプロジェクトを進めるなかで、この形式対実体という点は意識されていましたか?

手っ取り早く陳腐なものを生み出したいなら、非常に大きな音を出せるぜいたくな楽器編成で演奏してしまえばいいんです。ロンドン交響楽団がコールドプレイを演奏するようなものですね。私がやったのはこういうことではありません。どのトラックにも、そのトラックを興味深いものにしている核となる要素を1つ見出すようにしました。そして、その要素にインスパイアされるまま、創造力を働かせていったのです。

室内楽は、小さな部屋で、少人数の聴衆を対象に小さなアンサンブルによって演奏されるのが一般的です。今回のプロジェクトで室内楽というスタイルを選んだのは、お話にあったようなクラシック・カバーというカテゴリとの区別をはっきりさせたいという意図があってのことでしょうか?

それもありますね。室内楽の楽器編成は、交響楽のそれと比べてよりエッジが効いています。それに、私自身がテレビや劇場での仕事で、小さな楽器編成での制作に慣れているということもあります。そこでは、2~3名のセッション・プレイヤーを使用したエレクトロニック・ミュージックを短期間で制作しなければなりません。この分野には慣れているので安心できます。

アルバムには、原曲の構成とクラシックの楽器編成が自然にマッチしているもの、特定のクラシック・サウンドへと変換されているもの、そして意外性のあるサウンドが選択されているものと、さまざまなトラックが収録されています。Closer Musikの「One Two Three」は教会オルガン曲のような雰囲気となっており、またVoigt & Voigtの「Gong Audio」ではインドネシアのガムラン・アンサンブルがフィーチャーされています。これらの楽曲の制作中、使用するサウンドを決めるポイントとなったのは何だったのでしょうか?

かなり初期の段階で決まっていました。「One Two Three」を聴いたとき、うなりごまを思い出したんです。うなりごまとは子供のおもちゃで、金属製のこまです。子供の頃、いい音を出すうなりごまを持っていたことがありました。それで、ケルンにあるおもちゃ屋を巡って、あのときのこまに似た音を出すこまを探しました。しかしいいものが見つからず、新しいものはよい音が出ません。非常に古いこまをEbayで購入してみましたが、それも思っていたのとは違う音でした。その後、ベルリンのあるスタジオで別プロジェクトのレコーディングを行っていたとき、このポンプオルガンを見つけたんです。これなら思ったとおりのサウンドが出るかもと思ったので、スタジオのオーナーに掛け合って滞在を延長し、オルガンを録音しました。「Gong Audio」の方は、アイデアは非常にシンプルでした。オリジナルがガムラン音楽のようだったので、ケルンの民族博物館に行きました。そこには巨大な古いガムラン楽器が所蔵されています。この楽器の責任者を探して、ガムラン音楽の基本を教えてもらいました。そして彼にエレクトロニック・ダンス・ミュージックの基礎を教え、共同でこのアレンジを作成したのです。博物館所蔵の高価で貴重なゴングを使用する許可を得るのは簡単ではありませんでしたが、チャレンジこそが私のエネルギーの源です。

このプロジェクトにおいて、スタジオ技術はどれほど影響を与えていますか?また、通常の制作ではいかがですか?

私が演出した曲でも、多くのプロデューサーがAbletonを使用しています。まず1つのループにすべてを詰め込んで、興味深い要素を含む1小節か2小節のパートを加え、細かな変更や小さなパートを作成して楽曲を構成していくという構造になっているので、聴けば分かります。これは、編集モードとアレンジ・モードを使用して作業することに関係しているのだと思います。私もLiveを含むさまざまなソフトウェアを使用しましたが、最終的にアルバムすべてのミックスをAbletonで行いました。興味深い経験でした。ミックス以外のすべてにAbletonを使用している人がいますが、私はその逆をやってみまというわけです。KompaktのスタッフはほとんどがAbletonに慣れていて、Abletonは彼らにとって核となるツールとなっています。

ライブでは、このプロジェクトを6ピースのアンサンブルで演奏することが多いとのことですが。

6ピースのアンサンブルで2回演奏しました。一度はケルン、もう一度はポーランドのTauron Nowa Muzykaフェスティバルです。土曜にはソロピアノのセットで演奏しました。6ピース、デュオ、ソロピアノと3バージョン用意しています。

アルバム用のオリジナルのトラックに加えて、ライブ・パフォーマンス用のバージョンが会場のキャパシティに合わせて3種類あるということですね。トラックの作成と比べて制作の難易度はいかがでしたか?

アルバムが完成してからは少し楽でした。絵画の制作のようなもので、完成後はやり方が分かっているから、同じ画を描くのもそれほど大変ではありません。経験が増えた状態での再挑戦、という感じです。

パフォーマンスはすべてクラシック・コンサート形式で行われたのですか?

いいえ。ケルンで行った最初のコンサートはごく一般的なクラシック・コンサート形式で行われましたが、フェスティバルは1,000名ほどの大観衆が立ったまま踊りながら聴いていました。開演前はかなり不安でしたね。観客が曲についての説明を聞き、座ったまま目を閉じ、集中して音楽を楽しむことのできるクラシック・コンサートのスタイルについては、問題は生じないことが想像できました。それがダンス・フェスティバル形式で通用するのか不安でしたが、皆、しばらく弦楽四重奏に耳を傾けてから、音楽に合わせて踊り始めました。結果としてかなりうまくいったと思います。

パフォーマンスへのアプローチは同じですか?それとも、フェスティバルでのパフォーマンスでは自由度が高くなるのでしょうか?

クラシック環境の方がより自由だと思います。観客が集中しているので、変更を加えることができます。ダンス・フェスティバルでは、オーディエンスを盛り上げるためにも、ある程度キャッチーさを持続させていかなければなりません。

どちらがお好みですか?

両方を行えるのがうれしいです。このインタビューの冒頭でもお話ししましたが、さまざまな分野に居心地の良さを感じているので、あるときはクラシック分野で、またあるときはダンス・ミュージック分野で演奏できるというのはうれしいことです。かなり恵まれた状況だと思いますが、どちらも続けて行くことができればいいなと思っています。