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Goth-Trad: A New Epoch

Goth Trad

Goth-Tradは、近年エレクトロニック・ミュージックの世界で最も尊敬を集める日本人プロデューサーの一人。90年代後半に当時のアブストラクトなヒップホップに触発されてトラック・メイキングを開始し、その後日本を代表するダブ・レゲエ・バンドDry & Heavyのベーシスト、秋元”Heavy”武士と共にRebel Familiaを結成。ダブとロック、ドラムンベースなどを融合した新たなスタイルを確立し、日本国内で絶大な人気を獲得しました。その活動と並行し、Goth-Trad名義でソロの制作を続け、2000年代前半にエクスペリメンタルなノイズ・アルバムも発表しています。

そんな彼がさらに注目を集めるようになったのは、同年2005年に発表したアルバム『Mad Raver’s Dance Floor』。UKで台頭してきたダブステップのサウンドにインスピレーションを受けた本作の、収録曲のタイトルでもあった「Back To Chill」という名のダブステップ・パーティーを、2006年から東京で開始します。この年にDeep Mediを主宰するMalaと出会い、翌年同レーベルから「Cut End」が、Skudからは「Back To Chill」がリリースされ、一気にダブステップ・プロデューサーとしてその名を確立しました。2012年にはDeep Mediから7年ぶりとなるアルバム『New Epoch』を発表し、それ以降は新たなアプローチの曲作りを始めています。

東京のLiquid Roomで行われたワークショップにおいて、浅沼優子がGoth-Tradと彼のサウンド作りと新たな方向性について聞きました。

Goth Trad - "Sunbeam VIP"

Goth-Tradさんはこれまで様々なスタイルの音楽を作ってきていますが、そこには一環した美意識があると思います。ややダークで、低音重視で、質感はザラついている。ご自身には何か目指している音のイメージがあるんですか?それとも、自然と元々持っている好みが滲み出ているということなんでしょうか?

もともと、最初に音楽に入ったのはKraftwerkなんですよ。小学校6年生くらいのときにKraftwerkのリマスター盤アルバムみたいなのが出て、それを聴いたのがきっかけなんです。そのダークなジャケットのイメージと、音と、無機質な感じが原点ですね。でも、Kraftwerkって無機質だけどエモーショナルなんです。その次がLFOのファースト・アルバムなんです。

意外にもテクノなんですね!最初ヒップホップ・シーンから台頭してきた印象だったので、驚きです。

いや、もろテクノなんです。LFOとNightmares On Waxのファースト。それも、無機質なんだけどウワモノがエモーショナルなところがある。それが自分の音楽にとってもずっとテーマであるような気がします。

ダブがバックグラウンドにあるのかと思ってましたけど?

俺、ダブは全然聴いてないんです(笑)。むしろ、WarpとR&S、Rising Highをひたすら買ってました。そこからダブとか、On-U Soundを聴いたりとか。ブリストル系のMassive AttackとかPortisheadを聴きつつ、Wordsoundなんかも聴き始めて。その影響が一番残ってると思いますね。だから、Lee Perryとかはそこまでのめり込まなかったんですよ。手法としては面白いと思って取り入れたけど。どちらかというと、ダウンテンポとかアブストラクト・ヒップホップの質感を取り入れながら、テクノのエモーショナルな部分を、2000年くらいに曲をリリースし始めた頃から入れようと思っていましたね。

だから、俺はフレーズとかメロディ、もしくはそれに変わるベースラインは必ず入れているんです。そこが自分の曲の特徴だと思うし、自分が勝負出来るところだと思っていて。さらに上をいくには、ウワモノの使い方とか、エモーショナルなものを注入することで曲の個性を出さないといけないと思って。それを、今でもやっていきたいと思ってます。『New Epoch』の一曲目なんかも、ウワモノを重視して作ったし。感情的な色をつけるというか。それが自分の中では一番大事な部分ですね。

Goth Trad - "Man in the Maze"

現在はダブステップからは少し離れているとのことですが、その理由は?また他にはどのような音楽に興味をお持ちですか?

ダブステップで面白い曲を作っている人はたくさんいるし、それはチェックしているつもりなんですけど、やはり2006~8年の頃に比べると、その量は減ったかなとは思いますね。自分も、ダブステップのテンポでありながら、どこか違う曲を作りたいと思っているので、その分時間もかかりますね。アルバム制作して、それに集中しすぎたところもあるので、今は違うものに触れたいんです。

俺の場合は何か明確なテーマがあった方がアルバムが作りやすくて、例えばノンビートのノイズだとか。『New Epoch』は、6~7年自分がやってきたダブステップにフォーカスして作ろうとしたわけです。じゃあ、今はどうしようか、というのをここ1年くらい考えてます。テクノもチェックしてます。BlawanとかEmpty Setとか、インダストリアルな感じのものが結構好きで。今後は自分がこれまでやってきたことを、もっとナチュラルに出していきたいですね。ダブステップを含めて、自分の色んな部分を融合させていきたいと思っています。自分の昔のノイズのサンプルを使いながら、テンポも変えてダビーにしてみたり、そういう曲作りをしてみています。

アルバム『New Epoch』はダブステップというスタイルのひとつの集大成だったということですね。

そうですね。これからはダブステップをやっている部分は残しつつ、もう少し違うものを作っていきたいな、と。ちょうど最近アップしたばかりの、新しいミックスがあるので聴いてみて下さい。これはダブステップのテンポじゃないんですよ。

Goth Trad short mix, Feb 2014

四つ打ちなんだけど遅いテンポで、その倍でも取れるというか。ハーフステップのドラムンベースではないけど、ちょうどBPM85くらいなんですよ。でも音はインダストリアルなミニマルテクノみたいな。全部自作の曲かリミックスです。Andy Stottの音の質感もすごく好きなんですけど、それにダブの要素をもっと取り入れるような感じ。これを現場に持っていって、客を踊らせたいですね。去年から少しずつプレイしてみているんですが、なかなか反応が良くて。

去年は、Deep Mediから1枚ダブステップの12インチ出したんですが、リミックスも2曲出したんですよ。その両方がダブステップではないテンポです。ひとつはLea Leaというイギリスのシンガーで、もう一人はDanny Scrillaというアーティストの曲。

Lea Lea - "Black Or White (Goth-Trad Remix)"

Danny Scrilla - "Fallout (Goth-Trad Remix)"

これが両方ともとても評判が良くて。特にLea Leaの方はXLR8Rの年間ダウンロード・チャートにも入ったりして、一般のリスナーにも受け入れてもらえたんですよね。新しいミックスの評判もいいので、今後の自分のひとつの方向性にはなるかなと思っています。遅いんだけど、のれる感じ。そういう曲を作っている人が他にあまりいないので、ちょっと作っていってみようかなと。色々試してみているところです。

goth-trad-perform-1.jpg

制作には主に何を使用していますか?

制作は、LiveとMIDIキーボードのみです。Edirolの何でもない普通のキーボードです。

現在はLiveのみで制作しているとのことですが、かつてブレイクビーツを作っていた頃はサンプラーで作っていたわけですよね?いつからLiveに移行したんですか?

そうですね。あの頃はAKAIのサンプラーと、EZ VisionっていうMIDIだけ書くプログラムがあって、それをMacで使っていました。それから、もっとエクスペリメンタルなノイズ音楽をやり始めた頃も、ほとんどアナログの機材だけでやっていたんですよ。録音とエディットだけをApple Logicでして。Macで少しSuperColliderというソフトを使ってドローンのノイズを作ってみたりはしましたけど。それでアルバム『The Inverted Perspective』を完成させて、その後ダンス・ミュージックを再びやり始めたときに、Liveを使い始めたんです。

きっかけは、誰かにAbleton Liveというのがあるよと聞いて、使ってみたら、サンプラーを使っていた感覚にすごく近かったんです。サンプルの切り貼りで曲を作っていけて、EZ Visionと同じように作業出来た。実は同じ年の2005年に、『Mad Raver’s Dance Floor』というアルバムを出してるんですが、これはLiveを使って3~4ヶ月で作っちゃったんです。それで、Liveは自分に合っているぞと思って。

Watch Goth Trad build a track at Dubspot

ミニマルなベース音楽を制作するには、各サウンドを引き立たせる工夫が必要です。どのように曲の音質を仕上げていますか?また、そのサウンドをユニークなものにするためにどんなことをしていますか?

やっぱり1999年のアブストラクト・ヒップホップみたいな音がカッコいいとずっと思ってるんですよ。今のスタンダードでは、「音がこもってる」とか言われるだろうけど(笑)。でも、そこには正解があるわけではなくて、自分が好きに決めること。それこそがアーティストの個性だと思ってます。実際、「マスタリングってどこでどうやってますか?」って聞かれることが多いんですが、そこじゃないんですよね。ドラムンベースとかダブステップの連中って特に、曲が出来たらマスタリング前の曲をダブプレートにしたりCDに焼いたりしてすぐ現場でかけるじゃないですか。「マスタリングが悪い」なんて誰も言わない。音が悪いんだったらミックスが悪いわけですよ。日本では正規リリースされた曲でないとDJもかけない傾向がありますが、ダブステップの世界では特に「現場」が重視されていて、パーティーに行かないと聴けない曲がいっぱいあるんです。他の誰にも渡さずに、一人のDJしかかけられない曲とか。俺が最初にDeep Mediから出すことになったときも、Malaが「これ出したい」と言ってくれた曲を、「ヨーロッパでかけるのは俺だけにしたいから、他の誰にも渡さないで」って言われたんですよ。その後、たくさん他のDJにも欲しいって言われたけど、ちゃんと断ってました(笑)。

Goth Trad - "Cut End"

未だにそういう曲はありますよ。俺しか持ってない曲とか、俺と近しいDJしか持ってない曲とか。それはYouTubeにもアップされないし、オンラインで聴けるようなミックスには入れないんです。現場だけ。そういうのが2年くらい経ってリリースされたりするんですよね(笑)。ダブステップにどっぷりハマッていたころはそういう曲を入手するのに必死になったりしてましたけど、今は少し落ち着いて、特にアルバムの制作時からはより自分の音に集中するようになりました。最近は自分や本当に近しい人たち、Deep Mediのアーティストや一緒にパーティーBack To Chillをやっている仲間の曲だけでDJセットも組むようになりました。他のジャンルの曲をもっと聴くようになりましたね。

海外でのツアーはどのくらいの頻度でやっていますか?また、その体験にはどんな意味がありますか?

2007年以降は、基本的に年に2回のペースですね。俺は、あまりリリースしないタイプで、年に1枚12インチを出すか出さないかくらいなんですけど、やっぱり向こうでプレイすることは自分にとって大事なことで。自分の音楽をプロモーションするという以上に、向こうの現場でどういう音が鳴っているのかを自分が体感しに行くことでもあるんです。もちろん、日本に居ながらでも仲のいいアーティストからは未発表の曲が送られて来たり、向こうのラジオを聴いたりすることは出来るんですけど、実際に体験するのは全然違いますからね。自分のプレイに対する反応を見れるし、ツアーまでにこういう新しい音を入れたセットを完成させようとか、自分へのプレッシャーにもなります。そこでの反応を見て、また制作に反映させていくというサイクルは重要です。

 

- インタビュー 浅沼優子

 

楽曲、ツアー日程などの情報は、
Goth-Tradのオフィシャル・サイトへ。