Borderland: Time Changes

Juan AtkinsとMoritz von Oswaldは共に、私たちがその後テクノとして認識することになった音楽を定義づけ、その可能性を広げる上で決定的な役割を果たしました。デトロイトとベルリンという、それぞれのホームタウンである二つの点を線で繋ぎ、彼らは3MBという名義で1993年に初めて共同制作をしています。それ以降、彼らは不朽の名作の数々を生み出してきました ― von OswaldはBaric Chennel、Maurizio、Ryhthm & Soundとして、Atkinsは個人名義及びModel 500として。彼らの新たなコラボレーション・プロジェクト、Borderland（エンジニアとしてMoritzの甥っ子であるLaurensも参加）は、まるで繊細な形状、空間、緊張感、テクスチャーが描き出す風景の中を、地中から響くベースとキックドラムの鼓動に押されて進んでいく、ひとつのトリップのようです。

私たちが昨年開催されたAtonal Festivalで映像に収めた彼らのパフォーマンスを、下のリンクからお楽しみ頂けます。さらに、彼ら3名のメンバー全員と、過去、現在、未来の音楽の作り方について話をしました。

Laurens von Oswald

Borderlandのステージでは、あなたはミキシング・ボードとエフェクトを担当していました。スタジオ内でも同じ役割を担っていたのですか？

基本的にはそうです。私たちは、ステージ上でもスタジオ内でも、過去の手法をモダンなアプローチで採用しています ―― 要するに、ミキシング・ボードを重要な楽器のひとつとして捉えるということです。JuanとMoritzが演奏するシークエンスや楽器の音を処理し、最終的なミックスとして送り出すことが私の主な役割です。通常であれば会場のミキシング・エンジニアが担うことなので、少し変わったやり方ではありますが、私たちのやり方には通常とは異なる相互作用があるのです。

楽器としてのミキシング・ボード ―― この考え方には独自の伝統があります。ダブもテクノも、この考えから生まれたもの。Borderlandの他の二人のメンバーは、この両方の分野でよく知られた存在ですが、あなた自身の役割は、その伝統を受け継ぐことか、それとも脱却することだとお考えですか？

基本的には、私たちはライブをなるべくスタジオでのセッションに近づけることを重要視していました。それと同時に、それらは全く別物であるということも意識しなければいけませんでした。一定のテーマが流れるのに沿って、その場でそれに適したアイディアをプロデュースしていくこと。Borderlandの曲は、シークエンス、リズム、モチーフを丁寧に作り上げていく長いプロダクション・セッションによって出来ています。MoritzとJuanにとっては慣れたやり方で、おそらくModel 500の「Sonic Sunset」や「Starlight」も同じように作られたことでしょう。でもこのプロジェクトに関しては、お互いの最大公約数を見つけることが必要でした。ですから、伝統は確かにありますが ―― 脱却している部分もありますね。

Juan Atkins

あなたとMoritzは長い付き合いですが、いつ、どうやって最初に出会ったのか教えてもらえますか？

ワオ、確かMoritzがデトロイトに来たときだったと思いますね。彼と、Mark ErnestusとThomas Fehlmannは90年代前半に何度かデトロイトの質屋に楽器を買いに来ていました。彼らはデトロイト中の質屋を回って、アナログの機材を買い占めた後に、私のアパートにやって来たんです。私はMike BanksとURと同じビルに住んでいて、彼らはそのビルにやってきたついでに、自分たちはベルリンからやって来た者で、デトロイトのパイオニアたちに会いたかったと、私のドアを叩いて自己紹介してきました。

それをきっかけに、私がドイツに行った際には彼らを訪れて一緒にスタジオに入り、最初のプロジェクト3MBをやったりするようになりました。それ以来の付き合いになりますね。

Moritzとの共同作業においては、その頃と今ではどんなところが違いますか？

これといって違いはないと思いますが、唯一あるとすれば二人とも歳をとったことですかね（笑）。そのおかげでお互い知恵は増えたと思います（笑）。それ以外では、もちろんテクノロジーが進化しましたから、たくさんのアナログ機材の代わりに、ソフトウエアを多く使うようになりました。特にLiveはライブだけでなく、スタジオでも使用していて、Borderlandの作品の多くはLiveで作られました。それが一番の違いかもしれないですね…

逆に変わらないことといえば？

私とMoritzの友情ですね。私たちの相性は変わりません。お互いに楽器を手に取り、彼が何か演奏したら、私がそれに合わせて一緒に演奏したり、その逆だったり。その間、それほど話し合ったり複雑化することもなく、自然と何をやるのか通じ合えるんです。

あなたが真っ先に手にするプロダクション・ツールといえば何ですか？全曲に渡って使用したものは何かありますか？

必ず使用するものはありません。Moritzとの共同作業の楽しさ、それに彼らがデトロイトでアナログ機材の数々を手に入れた理由も、新しいことを試すということに尽きます。彼はこれらの全ての機材をMIDI対応にしているので、全てを交互に同期して同時に演奏させることが出来るようになっています。それに、曲によって異なる機材を使ってみることこそが最大の面白さなんです。リズム・セクション、ドラムだけが、恐らく一番変わらない部分でしょう ―― 808や909です。プロダクション全般に共通するところがあるとすれば、この部分だけですね。

Borderlandのアルバムの制作においては、あなたとMoritzとLaurensにはバンドのようにそれぞれ役割分担があったのか、それとも全員が全てを少しずつやったのでしょうか？

そうですね、基本的にはみんなで同時にそのときの気分に合ったことをやりました。特に誰が何をやるという決まりはありません。あえて言えば、私がドラムのプログラムを進んでやることが多いですが… それ以外ではメンバー全員が違うことを試してみたと思います。Moritzがドラムをやることもあるし、コード進行をやることもある。彼がリード・ラインを作ることもあるし、ベース・ラインを作ることもある。私やLaurensについても同じです。

Atonal Festivalの会場であるKraftwerkのような場所で演奏するのはどんな気分でしたか？

それはもう、実に素晴らしかったですよ。とても巨大な、元発電所というスペースです。そのインダストリアルで荒涼とした雰囲気と、響き渡る音が、すごい迫力を作り出してくれました。ベースは迫力がないといけませんし、音全体が空間を埋め尽くすのが理想ですから。貴重な体験でした。

ステージ上にはPushを持ち込んでいまいたが、どのように使用したんですか？

ほぼ全てのドラムですね。全てのドラム・パターン、ドラム・アレンジメントは私がプログラムして演奏したのですが、Pushでは各クリップに異なるドラム・パターンを入れておきました ―― Pushのボタンにそのプログラム上のクリップをアサインしたのです。ショーの進行に沿って、そのときの自分の気分で、異なるドラム・パターンやベース・ライン、その他の楽器をライブでアレンジしていきました。

Moritz von Oswald

Juanとは91年に初めて会った際に、すぐ共同制作を開始したのですか？彼の音楽は既に良くご存知だったことと思いますが…

はい、私たちが訪問する以前に彼が作っていた曲はいくつか聴いていました。すぐに共同作業に入ったわけではありません。私たちのことは、Tresor RecordsのDimitriがお互いに紹介してくれたんですが、その頃私には既に共同作業をしていたThomas Fehlmannというパートナーがいて、彼もコラボレーションに興味を持っていたので、ベルリンで全員が一緒に会った際にいくつか曲を作ってみたのです。

Juanとの共同制作には長い休止期間がありましたが、20年前と比べて変わったことは何かありましたか？

いいえ、二人で一緒に何かやる際の新鮮な気持ちは変わっていないと思います。私自身も、どんな変化があるのか興味があったんですが、実際には何も変わっておらず、二人ともかつてと同じような気持ちで共同作業することを楽しみにしていて、しかもそれがとても上手くいきました。

私たちは相変わらず同じサウンドを好み、ドラフト、音楽的なドラフトを同じ見方で見ていました。同じことを繰り返すことはありませんでしたが、お互いを良く理解し信頼していることが実感出来たということです。

よく知らない相手と一緒にスタジオに入ることは、難しい場合があります。それでも音楽を作ることは可能ですが、個人的によく知っている友人同士であれば、ずっとくつろいで作業が出来ます。私たちは、エレクトロニック・ミュージックという共通の音楽的趣味を持っています。ですから、お互いにその部分は信頼出来る。繰り返しになりますが、それは同じことを繰り返すというわけではなく、相手を知っているということです。

その頃と現在との作業の違いといえば、初めて共同作業した頃はどんなプロダクション・ツールを使用していて、現在のセットアップとはどう違いましたか？

当然、あの頃使っていたコンピューター・プログラムと、現在私たちが使っているものは全然違います。これはAbletonに関する質問に繋がるかと思いますが、実際に私たちはAbletonを使用しました ―― かつては存在していなかったので、使用していません ―― 今回は実際に使っています。そして、私たちの作業の仕方 ―― その場の気分に合わせて直感的にやる ―― にはとても適していて、ライブ感があり、速く、効果的に作業が出来ました。

あなたもJuanも、ハードウエアの巧みな使い手として知られています。あなたが必ず近くに置いている機材などはありますか？また、その質問に関連して、ハードウエアであれソフトウエアであれ、特定の機材をやみくもに崇拝する傾向に関してはどう思われますか？

ご存知の通り、私もシンセサイザーなどのエレクトロニック・ハードウエアを買い集めていましたが、それらは今も助けになっていますし使用しています。確かに私はハードウエアのシンセサイザーを使用していますが、それを神話化するつもりはなく、使い慣れたハードウエアは使い易いというだけなので、自分がどれほど馴染みがあるかによるでしょう。ソフト・シンセやドラムマシンについても同じことが言えます。私にとってはいい音がするかどうかということが問題で、古いシンセのいくつかはとにかく自分の好みなんですね。

Borderlandのライブについては、スタジオでやっていることを聴衆の前で再現するという考えですか、それともライブのためだけに準備したこともあるのでしょうか？

作り物としてのプロダクションがあると考えるなら、私はそれを越えるような、作り物であるCDなどを凌ぐ、一歩先をいったライブ・パフォーマンスをやりたいですね。ライブにおいてとても重要なのは、プロダクションあるいは録音物以上のことを実現するために多少のリスクを追ってでも違ったことに挑戦することです。ですから、私のアプローチは録音物にさらに何かを追加すること、つまり異なる楽器や要素、アレンジメントを試してみることでした。十分なエネルギーやアイディアがあるかどうかにもよりますが、準備という点においても、アプローチという点においても異なると言えます。

Atonal Festivalでの公演は満足のいくものでしたか？

ええ、私は満足できました。時には不調により機材が100%機能しないことなどもありますが、私はそのせいで動揺することはありません。なぜなら、それもライブ・コンサートの醍醐味だからです ―― 開始の瞬間から全てが絶好調にいくとは限りません。そういうこともあります。クラシックのコンサートでも、ティンパニのチューニングが合っていなかったり、ヴァイオリンの弦が切れてしまうことなどがあり得るのと同じです。電子機器は、私たちが思うほど常に信頼出来るものではありません。ですから、常にハプニングの可能性がありますが、それがライブというものなのです。